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施政方針演説2025―「私たち」の力で誰もが生きやすく、幸せな社会をつくる(2月20日)

2025年度の施政方針演説を行いました。


施政方針演説1  施政方針演説2


施政方針演説3


私たちは、私たちの社会が置かれた現実を踏まえ、よりよい社会を未来につないでいくため、何をなすべきか。持続可能性を高めるための普遍性を意識しながら、古賀市のまちづくりの理念と実践、これからをお伝えしています。長文ですが、ぜひご一読ください!

<令和7年度(2025年度)施政方針>

目次
1.はじめに
2.戦後80年―恒久平和希求と人権保障の徹底
3.DXの加速と市民サービス向上
4.これから半世紀を見据えたまちの改造・再編
5.シェアリングエコノミーと公民連携の推進
6.誰もが生きやすい社会とチルドレン・ファースト
7.コミュニティ再生による地域支え合い体制と郷土愛醸成
8.多様な生き方を保障する働き方改革
9.おわりに


1.はじめに

人工知能(AI)に代表されるデジタル・ツールの技術革新は、私たちの暮らしをよりよくし、社会を進歩させるのか。生成AIが日常に直結したことでテクノロジーと人間存在への関心が急速に高まっています。そして、近未来はユートピアなのか、ディストピアなのか。世界の不確実性が高まる中、私たちは予測し難い将来に不安を抱かざるを得ません。

昨年10月14日、ノーベル経済学賞の受賞者を知り、驚きました。マサチューセッツ工科大学(MIT)のダロン・アセモグル教授とサイモン・ジョンソン教授は、私が偶然、注目して読んでいた「技術革新と不平等の1000年史」の著者。中世の農業の近代化から大洋横断貿易、産業革命、そして現代のAIまでの人類の歩みは、皆を幸福にしたのか。テクノロジーの方向性、さらには民主主義の価値を考究した上下巻約600ページにわたる大著に次の一節があります。

「実は、1000年にわたる歴史と現代における証拠から、一つの事実がきわめて明白になる。つまり、新たなテクノロジーが広範な繁栄をもたらすということに関して、自動的な部分はなにもないのだ。新たなテクノロジーが広範な繁栄をもたらすか否かは、経済的、社会的、政治的な選択にかかっているのである」

イノベーションが生じれば私たちの暮らしがよくなるのではなく、私たちがそれをどう機能させていくかで、社会のあり方が変わっていく。人類の戦史から明らかなように技術革新が兵器の進化、原子爆弾などの大量破壊兵器の開発と使用という結果をもたらし、今もなお私たちは脅威にさらされ、AIは、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツさんも言うように「政府を効率化する可能性もある一方、戦争を大きく変えうる技術でもある」(朝日新聞令和7年2月4日付朝刊)とされます。日々の暮らしに引き付けると、私たちは、SNSにおける差別的言動や根拠なき風説の流布、社会的分断の扇動に、意識的、無意識的に巻き込まれています。AIをはじめとするデジタル技術の実装による社会の進歩と幸福追求の可能性の開拓は、当然に人間次第である、ということです。「我々が賢明であれば、マイナス面は最小限に抑えられるでしょう」(同)との知見を信じたい。

つまり、時代の要請として、政治と行政、企業、団体、市民一人一人の責任は重くなっているといえます。だからこそ、人と人がつながること、連携することで、技術革新の時代を乗り越えていかなければなりません。それぞれが社会における責任を自覚したうえで、それぞれの経験や知見、感性を交差させ、新たな価値を生み出す「共創」を前提に、まちづくりを進めていく重要性が増している。そう考えています。

2.戦後80年―恒久平和希求と人権保障の徹底

私の祖父は、旧陸軍に召集された自分の父親が戦時失踪宣告、遺骨は存在しません。「シベリアに連れていかれた」との話もあります。祖父は生前、「おやじは生きている」と信じ続けていました。祖母は、家族で現在の北朝鮮にいましたが、ソ連の侵攻から逃れながら38度線を越えました。祖母の姉はその途上で亡くなりました。半島から日本に帰国する船の中では、子どもが泣くことはありませんでした。祖母は生前、「赤ちゃんの泣き声は平和な証」と語っていました。

今年は戦後80年。先の大戦の体験者から話を聴き、その本質を知る機会が急速に失われており、戦争体験を追体験し、平和で安定した社会を築いていくことが、私たち戦後世代の責務であることを再確認したい。そもそも「戦後」とは何か。戦争体験者は「終わらない戦争」を生きてきたのではないか。そこに、戦争が最大の人権侵害とされる本質があるのではないか。

戦後80年は被爆80年でもあります。古賀市は被爆クスノキを全ての小中学校に植樹し、修学旅行では被爆地の長崎や広島を訪れ、「じんけん平和教室」として長崎でフィールドワークを実施し、市独自の人権教育副読本「いのちのノート」でも原爆をテーマとしています。今年1月、東京都武蔵野市で開催された平和首長会議に参加し、これらの取組を報告しました。その中で、名誉市民の中村哲さんが青少年期を過ごした故郷として、その志と功績を市民の皆さんと共に次代につないでいることを柱に据えて話したところ、特に母校の古賀西小学校の児童が総合的な学習の時間を活用し、絵本をつくった取組は参加者の皆さんの心に響いていました。これらの積み重ねを戦後90年、100年、さらにその先の未来につなげられるよう、平和行政を強化します。

そして、戦争と平和を考えることは、人権保障を徹底する決意を新たにすることにもつながります。憲法第13条の個人の尊重と幸福追求権、第14条の法の下の平等を胸に刻み、部落差別をはじめあらゆる差別を許さない姿勢を堅持し、誰もが生きたいように生きていける社会を古賀市からつくっていきましょう。

3.DXの加速と市民サービス向上

今年の「二十歳の集い」は風景が一変しました。対象者への案内状に、公式LINEのQRコード受付を導入したことで、参加者の97%、460人がQRコードを利用し、スムーズに受付をすることができました。また、従来3時間かかっていた集計作業が不要になりました。さらに、受付時間の実績データを取得できたことで、来年度はより効率的な人員配置が可能になります。デジタル技術の活用によってトランスフォーメーション(変革、革新)が起きたことを実感します。

このように、DXとは、デジタル技術の導入を通じて業務の効率化を図るだけでなく、市民サービスの向上を実現することに意義があります。単にデジタル化をするだけではDXとは言えず、その活用を通じて変革を起こす、つまり社会の仕組みを進化させることが求められます。そのためには、主体性、能動性、積極性が重要です。

産後ケアのオンライン申請はその象徴的な例です。デジタル庁によるアナログ規制見直しの一環として昨年実施し、石破茂総理大臣が主導するデジタル行財政改革会議でも好事例として紹介されました。産後の体調が回復していない中で窓口に出向くことは当事者にとって大きな負担です。そこで、書面・対面を前提としていたルールを改正し、オンライン申請を可能にしました。さらに、窓口での原本提示が必要だった母子手帳についても、スマホで撮影した画像を添付できるように改善。現在では、ほぼ全ての申請がオンラインで行われています。令和6年度の住民税非課税世帯緊急支援給付金では、県内で初めて「スーパーファストパス」を採用しました。従来1カ月かかっていた給付金の支払いが最短10日で可能となり、郵送経費の削減に加え、受付や申請内容の確認の時間も短縮されました。

ペーパーレス化の徹底も奏功しています。物価高の影響でコピー用紙などの経費が高騰する中でのコスト削減にとどまらず、印刷、コピー、丁合い、配布といった作業が不要になりました。加えて、チャットツールの活用で紙の回覧文書に頼らない迅速な情報共有が可能になり、市民サービス向上のための意思決定のスピードも向上しています。

AIの活用も本格化させ、生成AIの業務利用に向けた実証実験を行います。従来の生成AIは誤情報を生み出すリスクがあるため、業務利用には慎重な対応が求められました。しかし、古賀市のデータを基に回答を生成する仕組みを取り入れることで、信頼性の高い情報提供が可能になります。これにより、さらなる生産性の向上と業務の効率化が期待されます。

実際、この項の原案作成でも私自身の執筆に加え、生成AIも活用し、最終的に私自身が校正しました。AIと人間が協働し、業務を進める未来が現実に近づいています。

4.これから半世紀を見据えたまちの改造・再編

古賀市の持続可能性を高めるため、6年前に産業力の強化を公約に掲げて市長に就任して以来、工業・物流団地の整備を推し進めてきました。「あそこにはなんができると?」。市内外の皆さんからこう声を掛けられる機会が増えています。市議会はもとより、国、福岡県・県議会の多大なるお力添えを得て、現在、古賀グリーンパーク前の青柳釜田地区は造成を終え、既存工業団地を四半世紀ぶりに拡張する今在家地区、九州自動車道古賀インターチェンジ直近の新原高木地区、筑紫野古賀線へのアクセス性も高い青柳大内田地区で工事が進んでいます。この間、都市計画決定などの節目で発信はしてきましたが、やはり具体的に動きが見えるようになると、反応の違いを実感します。この4か所に加え、今在家地区に隣接してさらに工業団地を拡張する青柳迎田地区、移住・定住の受け皿として居住機能を強化する古賀中学校周辺の新久保南地区の2カ所についても、令和8年度末の都市計画の変更に向けた手続きを進め、地権者の皆さんを支援していきます。計6カ所の都市開発、着実に進めます。

昭和、平成の時代を経て、これから半世紀のまちづくりを進める節目にあることを実感しています。これまでの歩みを踏まえながらも、次世代のための新たなインフラの整備が求められます。

まちづくりの「1丁目1番地」として、JR古賀駅周辺の中心市街地活性化を推進しています。東口エリアは、駅からリーパスプラザこがまで「公園」で直結し、住みやすく、歩きやすく、心地よく過ごせるウェルビーイングでウォーカブルな空間を軸として、買い物や子育て、健康づくりなどを楽しめる場に生まれ変わらせます。地元関係者の皆さんとの詰めの協議を進め、令和7年度中に都市計画決定を実現したい。まずは道路と公園の計画をつくり、その後、エリアの用途について工業から住居や商業への転換を図ります。また、3D都市モデルを活用してこうした将来のまちの姿を再現し、市民の皆さんに具体的に理解を深めてもらえるようにします。

こうした東口エリアの動きに連なり、市域全体を俯瞰しながら、市民の交流拠点であるリーパスプラザこがを中心とした生涯学習ゾーンの大幅なリニューアルを進めることも必要です。国道3号から古賀駅東口へのアクセス性を高めるため、大根川沿いから現在の市民体育館付近を通る新たな道路の建設に向けて準備を進めます。これに伴い、市民体育館を千鳥ヶ池公園に移転し、新たな体育館を建設します。さらに、市民グラウンドに新たな駐車場を整備するための調査を進め、現在のスポーツ機能については、市内の公園などの公有地の活用や古賀中学校周辺開発との連動を念頭に、別のエリアへの移転・集約を検討します。こうした大規模な再編は、今年度策定を進めている公園再整備基本方針の具現化の一環でもあり、まずは千鳥ヶ池公園と古賀グリーンパークの基本設計に着手します。

社会福祉センターの千鳥苑は、施設の老朽化に伴い建物を廃止し、その主な機能は福祉サービスの維持を前提として民間施設などへの移転の検討を進めます。人口減少社会の中で将来世代への負担軽減も意識した公共施設等総合管理計画に基づくマネジメントであり、広くご理解をいただけるよう説明していきます。

都市と自然の調和の観点から、農業の持続可能性を高めるため、基盤整備による生産の高効率化も求められています。小野南部地区に続き、薦野清滝地区を対象エリアとして整備を進め、新たに筵内地区に広げていくことができるよう地元との調整を図ります。

まち全体の改造・再編の動きを前提として、古賀駅西口の駅前広場の整備、工業・物流団地を形成している開発エリア周辺の道路形成、西鉄宮地岳線跡地や花見佐谷線における車道と歩道を分離した歩行者の安全対策としての道路整備や憩いの空間形成も進めます。市民生活に必要不可欠な水を安定的に確保するため、市外から全量受水する体制を整えたうえで、浄水場を廃止します。これにより水道経営の持続可能性を高めます。

5.シェアリングエコノミーと公民連携の推進

公用車が使われていない時に、市民や来訪者の皆さんが利用できるよう、新たな事業としてEVカーシェアリングに着手します。公有財産の有効利用や、ゼロカーボンシティとしての脱炭素推進が念頭にあります。同じ観点から、市役所駐車場が使われていない休日、夜間にそのスペースをシェアし、有料での貸し出しの検討を進めます。

人やモノ、場所、時間、スキルなどを共有し、効率化、合理化を図り、社会の持続可能性を高めるシェアリングエコノミーの推進は、古賀市のまちづくりの重要な理念に位置付けています。令和5年度に試行的に始めた全ての小中学校の水泳授業の民間委託は、民間企業と連携した場所やスキルのシェアで児童生徒の泳力向上や教員の働き方改革を実現し、長期的な財政負担軽減につながることから、令和7年度からの本格実施を決めました。

人材のシェアは可能性を広げてくれます。地域に暮らしながらデジタル技術を活用して自らのスキルを仕事につなげる「シェアワーカー」は、ぜひ広げていきたい新たな働き方です。一つのプロジェクトを一つの企業内で完結させるのではなく、企業外の多くのシェアワーカーを活用したい。石破政権が掲げる「地方創生2.0」では、「楽しく働き、楽しく暮らせる地域」を創ることを基本姿勢とし、若者や女性にとって魅力ある働き方の環境づくりを重視していますが、古賀市はこれに先行してオンラインを活用したシェアワーカーの育成に取り組み、既に自らのスキルを仕事につなげた女性たちが生き生きと働いています。令和7年度は、育成したシェアワーカーを地元企業のDX推進役につなげる事業に発展させます。一般社団法人シェアリングエコノミー協会代表理事の石山アンジュさんによると、古賀市のこうした取組を内閣府に紹介したところ、高い関心を持ってくださったといいます。

また、今年1月、市役所の職場環境改善をめざして副業人材の活用にも乗り出すと、全国各地の多くの民間人材から応募がありました。それまでの仕事で獲得したスキルを所属組織だけでなく、広く共有し、社会を前進させることへの関心の高さがうかがえます。

温泉旅館をサテライトオフィスやコワーキングスペースに改装したインキュベーション施設「快生館」は、まさに新型コロナウイルス禍の後に機運が高まったこうした新たな働き方のシンボルとしての機能を果たしてきました。素早く危機を好機に転換し、テレワークの拠点としてのみならず、ワーケーションや企業合宿での利用が広がり、移住定住の促進、関係人口の創出につながっています。内閣府やデジタル庁、全国の自治体、民間企業から注目を集めており、スタートから5年目を迎えて公民連携による運営委託の最終年度となる令和7年度、民間企業による自走をめざし、関係者との調整を図ります。

公民連携を肝とするのが、脱炭素社会を実現するためのGX(グリーン・トランスフォーメーション)の推進です。古賀市は令和4年以降、CO2排出量の見える化の実証事業などを展開しながら、企業や金融機関、市民、商工会、環境の専門機関、行政など多様な主体がつながるプラットフォームを構築し、企業が脱炭素経営を進める前提として自社の置かれている状況を確認するための「脱炭素カルテ」や、このカルテに基づく判定から必要となる「支援メニュー」の一覧を作成しています。令和7年度はこれらの活用と専門性を持ったコーディネーターの配置を通じ、多くの企業への具体的な支援につなげると共に、持続可能性を高めるための新たなマネジメント組織の立ち上げを検討します。

生産年齢人口の減少が不可避な情勢の中、こうした地元企業との連携で、家業後継者などの「アトツギ」による事業承継の支援や高校生の企業見学バスツアーを展開し、安定的な人材確保をめざします。新たに首都圏の大学生などを対象としたインターンシップ留学も予定しています。観光・物産・情報発信機能を強化するためには新たな価値観を捉えることが必要であり、民間企業の外部人材の力に期待します。物価が高騰する中、地元企業の生産性向上の支援を強化し、消費拡大もめざします。

6.誰もが生きやすい社会とチルドレン・ファースト

全て手話による講演会を昨年8月に開催しました。講師は先天的に耳が聞こえず、ご両親もろう者の大学生、奥田桂世さん。奥田さんの日本手話による講演を、手話通訳者さんが日本語に翻訳して読み上げました。参加者の多くはろう者ではなく、世界が「逆転」したような印象を持ったと思います。多数の世界観が全てではない。少数の皆さんとどう共生していくか。お互いを受け入れ、尊重し合い、歩んでいくとはどういうことなのか。「障がい者」とは一体何なのか、その名付け、社会におけるその区別とは。真に多様性が尊重される社会とは。

合理的配慮を実践できているか、私たち一人一人が自省したい。多様な立場の人の情報にアクセスする権利が保障され、円滑にコミュニケーションできる社会をめざし、条例を制定します。医療的ケア児・者と家族の暮らしをサポートしていきたい。福祉事業者と連携し、特別支援学校への登校を財政的に支援することで、家族のレスパイトにもつなげます。障がい者自身の高齢化、親亡き後の生活、精神保健分野の相談の複雑化・多様化などの課題が顕在化しており、対策が急務です。ソーシャルワーカーを中心とした体制であらゆる相談に対応できるよう、障がい者基幹相談支援センターの設置を検討します。高齢者人口が増加していく中、まち全体で認知症の人に「寄り添う」機運も高めます。猛暑から命を守る取組も進めなければなりません。公共施設等連絡バス「コガバス」の市町境を越えた新宮中央駅への乗り入れやAIオンデマンドバス「のるーと古賀」の展開、ライドシェアや自動運転の検討などの地域公共交通ネットワークの拡充は、公として様々な事情のある私たち一人一人の移動する権利を保障したいからこそであり、しっかり進めていきます。

つまり、誰もが生きやすい社会をつくるとは、人権保障を徹底すること。固定的な性別役割分担を排し、男性の家事・育児参加を当然のものとし、ジェンダー平等社会をめざすべきこと。性別は男女のみに二分されず、性の多様性を社会の前提にすること。日本で働く外国人やインバウンドが増え、日常生活の様々な場面で接することが当たり前になっているからこそ、直接、顔と顔を合わせ、心と心を通わせ、国際交流と多文化共生を進めること。世界で分断と排除が広がる中、古賀市はこうした風潮に流されることなく、「いのち輝くまち」をめざしています。

そして、最も大切にされるべき存在が、子どもたちであり、その先の世代です。古賀市はチルドレン・ファーストの理念を掲げ、子ども・子育て支援や教育環境の充実を進めてきています。特に、近年増加傾向にある不登校については、登校できるようにすることを目標とするのではなく、社会的な自立をめざすことが重要であり、古賀市内の全3中学校区への児童センターの設置や、子育て支援団体との連携などで多様な居場所を保障してきました。令和7年度、様々な境遇にある児童生徒の多様な学びの機会を保障する一環で、フリースクールの費用助成をスタートさせ、さらに支援を強化します。子育て家庭の孤立感や不安感の解消のため、妊娠・出産・乳幼児期のアウトリーチも含むきめ細かな伴走型支援に加え、「こども誰でも通園制度」を国基準の倍の時間を保障し、スタートさせます。

昨年7月、福岡市内で開催された「多胎シンポジウム」で登壇しました。当事者である多胎経験者の皆さんと意見を交わす中で、多胎家庭に伴走、傾聴、助言するピアサポートの体制をつくる重要性について理解を深めることができました。多胎家庭を支える一般社団法人「tatamama」の牛島智絵代表理事や一般社団法人日本多胎支援協会の太田ひろみ理事によると、双子の早産リスクは単胎の10倍、低体重が7割とされ、医学的リスクが高く、まずは「無事に出産すること」を強く意識することになります。そして、育児にかける時間が驚異的です。一般的に産後1年の場合、1人の赤ちゃんの授乳や抱っこ、おむつ替えを合わせると1日で8時間25分かかるとされます。双子の場合、それぞれの赤ちゃんでそれぞれのペースでこれらが訪れるので、倍の時間の約17時間、さらに沐浴1時間を入れると1日約18時間を育児にかけていることになります。さらに、夜泣きもばらばらなので、特に母親の負担は大きく、自身も双子を育てる牛島さんの産後26日目の24時間の記録を見ると、睡眠時間はわずか1時間が3回取れた程度です。まさに文字通り寝食を忘れて家事・育児に奔走している厳しい状況が分かります。加えて、外出時などの安全面のリスクも高いとされます。このため、古賀市として独自に産後ケアの利用者負担軽減や産前産後ヘルパーの支援内容を拡充するとともに、民間団体と連携したピアサポートの実施を検討します。

子どもたちの学びと育ちを一層支えるため、近年、教育改革を進めています。5時間授業を週4日としたことで、児童生徒は6時間目の授業の負担感から解放され、心にゆとりができ、放課後に友だちと遊んだり、自分のやりたいことや習い事、学習塾に挑戦できたりする時間が確保されています。平成28年度から実施している小中学校全学年での原則35人以下学級は、コロナ禍を経て、ようやく国の方針となりました。令和7年度は通級指導教室における自校方式の導入や巡回指導の充実でインクルーシブ教育を推進し、既に着手している全小中学校の体育館への空調整備も順次進めます。「生き抜く力」を育むため、通学合宿や寺子屋などの地域や子育て支援団体と連携した居場所づくりも活発です。給食の日数を増やすこと、制服や書道セットのリユース、数のおけいこセットの市費購入などを通じて保護者の負担軽減に取り組み、新たに低学年の児童が通学をしやすいよう西鉄バスの定期券購入支援も始めます。政府・国会で給食無償化の検討、議論が活発化しているところですが、この動きに先行して公会計化も進めます。

こうして公民の様々な取組で支えられる存在としての子どもたちが、「私と社会のつながり」を意識し、社会の構成員の一人として責任ある行動の主体者となれること、誰かを支える存在となることが重要です。つまり、主権者としての意識を持つこと。給食の時間のランチミーティングや「1日市長」、高校生が市長の相談役として政策を提言する「リバースメンター」に参加する子どもたちとの対話、その表情から、主権者教育と子どもアドボカシーを実践する重要性を実感しているところです。

7.コミュニティ再生による地域支え合い体制と郷土愛醸成

古賀市は令和9年度、市制施行30周年を迎えます。昭和100年にも当たる令和7年度から、その大切な節目を意識してまちづくりを進めていきます。先の大戦の混乱から立ち直り、経済が成長し、国民の暮らしが豊かになっていこうとする昭和30年に誕生した古賀町が、国家の歩みと共に発展を遂げ、私が高校2年生だった平成9年に古賀市となり、令和の新たな時代に未来を拓く。皆さんと共にその決意を新たにしたい。

この節目に、人と人がつながるコミュニティの重要性を一人一人が再認識し、考え、行動につなげていきましょう。人は一人あるいは一家庭では生きていけず、公助には限界がある中での共助。例えば、生産年齢人口の減少が不可避な中、介護・福祉人材が不足する現実を前に、私たちはどうすべきか。車で人や物を運ぶためのドライバーが不足し、移動や必要な物を入手することが困難な現実を前に、私たちはどうすべきか。大規模災害発生時の対応を想定する以前に、日常生活すらリスクに脅かされています。今年1月、シニアクラブ連合会の皆さんとの懇談の場で、ある人生の先輩が自治会加入率の低下に懸念を示しながら、まずは1年間お試しで入ってもらって近所の人が行事などへの参加に声を掛けて伴走する「トライアル入会」をしてみてはどうか、との提案をくださいました。市内外の皆さんがまちの魅力を発掘し、社会課題解決のアイデアを生み出す「こがのば実験室」では、子育て、循環型社会、焚き火、宇宙食、アートを軸として、それぞれ新たな場づくりによるコミュニティ再生の挑戦が進んでいます。市職員がより一層、地域に入っていく仕組みづくりも必要です。こうしたアイデアの積み上げと実践が求められる中、人と動物の健康、環境の健全性を一つとする「ワンヘルス」の理念のもとにある地域猫活動は既にコミュニティによる生活環境の改善という成果を生んでいるといえます。地域防災力の強化、消防団の新体制でのスタート、民生委員制度の持続、部活動の地域展開、地域との連携による外国籍市民との交流、暴力追放。全て、支え合いが前提にあります。

文化とスポーツもコミュニティの源泉です。国史跡船原古墳の保存と活用、画家の赤星孝・信子ご夫妻や特撮美術監督の井上泰幸さんなど古賀市にゆかりある先人たちの功績の継承、様々なプロスポーツ団体との連携、市民相互の生涯学習を通じた多様な交流が、シビックプライドの涵養につながっていくと考えます。

8. 多様な生き方を保障する働き方改革

市民の利便性を高めるためにどのように働き方を変えていけばよいのか。組織として個別具体的な課題について改善を図るとともに、全体最適化の発想につなげていく。今年から始めた窓口受付時間の短縮は、住民票などの証明書のコンビニ交付や公開型地理情報システム(GIS)導入によるインターネットでの道路台帳などの閲覧という個別具体的な利便性向上策が生んだ来庁者の減少という事実を踏まえ、組織経営として、庁内全体の政策立案機能の強化という働き方改革とそれによる市民サービス向上につなげようと意図しているところに意義があると考えています。

その実効性を高めていくため、市職員が市役所の実際の手続きを体験することで現状を把握し、高効率化やDXの検討など市民サービスの向上につなげる「窓口体験調査」を昨年12月に初めて実施しました。年齢や職業、家族構成などサービスを受ける典型的なモデルとして市民のペルソナを作成し、その市民になりきって実際の手続きを体験し、市民の手続きが楽になる方法を一つでも作り出してみることが目的でした。「行政用語が多くて説明が分かりにくかった」「待ち時間がわからないのがストレス」「配布された紙が多すぎて、手続き用か保管用か分からない」――。職員が自らの組織の抱える課題を体感する機会になりました。

これまで先駆けてきたテレワークやフリーアドレスデスク、時差出勤、立ち会議室の導入、ペーパーレスの徹底などもこうした文脈上に位置付けており、令和7年度はさらに働き方改革、オフィス改革を加速させていきます。文書の電子決裁の導入は意思決定の一層の迅速化を生み、カスタマーハラスメント対策の強化は限りある人的資源を有効に活用したより多くの市民へのサービス提供につながります。

職員が多様な生き方を保障され、ウェルビーイングを実感しながら働ける環境がなければ、市民の幸福は生み出せませんし、生産年齢人口と公務員志望者が減少する中、中長期的に優秀な人材の獲得が困難になります。男性育休100%はそのシンボルに位置付けているところですが、令和7年度は子育て支援休暇を独自に拡充し、子どもが中学校就学前まで取得可能な制度を創設します。

こうした組織としての働き方改革の積み重ねがあってこそ、社会課題を解決するための政策立案能力を高められます。元佐賀県武雄市長の樋渡啓祐さんは今年度の職員研修で、自治体経営には「できる理由を考え、既成概念を突破する」こと、「ブランド・スピード・ストーリー」を意識した創造性ある仕事が必要であると、職員に教えてくれました。私もそうした実践が市民生活の向上につながると考え、行動していきます。

9.おわりに

「You are so amazing」の旋律と歌詞、そして歌声は、私たち一人一人の人生を肯定し、包摂し、前を向いて生きていくための希望を抱かせてくれます。作詞・作曲は森優太さん、歌うのはスコットランドのバンド「ベル・アンド・セバスチャン」のスチュアート・マードックさん。昨年9月までの半年間放送されたNHKの連続テレビ小説「虎に翼」のメインテーマ曲であり、古賀市がめざす「すべての人」が生きていきやすいまちづくりの思いに通じます。

Every step and every choice of your life will make you shine
すべての歩みとすべての選択があなたの人生を輝かせる

特に、主人公の佐田寅子の夫・優三が先の大戦で出征する際に使われたその場面は強く印象に残りました。米英などと戦った80年前の戦場に出向く夫と妻の別れのバックに流れるのが、現代の英国の歌手が歌う優しさあふれる楽曲というシンクロナイズ(同期)に驚かされ、感動したのを鮮明に覚えています。そして、さらに驚いたのが、森さんへのインタビューから制作秘話を報じた新聞記事でした。

「すべての人生を、優しく全肯定する。そんなサウンドを模索していたら、思いがけなく歌ができた。その歌が、ずっと憧れていたマードックの声で胸の中に流れ始めた。『せっかくの大舞台。理想にこだわってみよう』。ネットでマードック本人のエージェントのサイトを見つけ、『ずっとファンです』と思いの丈をつづった文章を添えて曲を送ってみたところ、『楽譜をください』との返信が届いた。『どういうこと?まさか、歌ってくれるってこと?』。1カ月後にはリモートでのレコーディングが実現。すべてが夢のようだった」(朝日新聞令和6年9月7日付夕刊)

まずやってみること、挑戦すること。確固たる理念を共有すること。そうすれば、夢がかない、未来が拓ける。先の大戦を経て成立し、「虎に翼」に通底して流れていた憲法第14条の法の下の平等の理念、そして、そのメインテーマ曲の成立の前提となった挑戦する姿勢を大切にしながら、戦後80年の節目の年も全力でまちづくりを進めていく決意を新たにします。既に市長2期目の後半に入りました。令和7年度も、市民の皆さま、市議会の皆さまのご理解とご協力、ご支援をお願い申し上げ、施政方針といたします。

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